割れた器の物語 — カスガイから金継ぎ、そしてグルー継ぎへ —

修理・お手入れ

アンティークの器の中に、ときどき「修復されたお皿」に出会うことがあります。
欠けではなく、割れやヒビが直された器。

よく見ると、割れた部分に細い金属が添えられています。まるでホッチキスのように器を留める小さな金具。

これは「かすがい(鎹)」という修復方法です。

器をつなぎとめる「かすがい(鎹)」という修復

「かすがい」は本来、木材と木材を固定するための金具ですが、割れた陶器の両側に小さな穴を開け、そこに金属のかすがいを打ち込み、器をつなぎ合わせる方法。

今見ると少し無骨な方法ですが、これは実は日本だけではなく、ヨーロッパでも行われていた修復方法でした。

ヨーロッパではこの修復は「ステープルリペア(Staple Repair)」と呼ばれています。

特に18〜19世紀頃には、陶器を修理する専門の職人がいて、各地を回りながら割れた器を修復していました。

そんな職人のことをイギリスではこう呼ばれていました。
チャイナ・メンダー(China mender)

当時、陶器はとても大切な生活道具。簡単に買い替えられるものではありません。

だからこそ人々は、割れてしまった器も直して使い続けていたのです。

もう少し補足すると、
修理職人や家庭で修理する場合は、補助的に接着剤を使うこともありました。
当時使われていた可能性のあるものは主に天然系の接着剤です。

代表的なものは、動物性の膠(にかわ)、魚膠(フィッシュグルー)、樹脂系接着剤、石灰系セメントなど。

ただし、昔の接着剤は、
水に弱い、熱に弱い、強度が弱いという問題があるため、接着剤だけでは器はすぐ壊れてしまう。

そこで登場したのが金属で固定する方法だったのです。

つまり、
かすがい
接着剤
かすがい+かすがい
という方法で器を実用できる強度にしていました。

日本で生まれた美しい修復 金継ぎ・銀継ぎ

やがて日本では、器の修復は新しい美意識へと発展します。

それが 金継ぎ銀継ぎ です。

この技法が生まれたのは15世紀頃の 室町時代 と言われています。

きっかけとしてよく知られているのが、将軍 足利義政 の茶碗の修理の話です。割れてしまった茶碗を中国へ送り修理してもらったところ、金属の留め具で直された状態で戻ってきました。しかしその姿はあまり美しいものではありませんでした。

そこで日本の職人たちが、漆で接着しその継ぎ目を金で装飾するという修復方法を生み出しました。壊れた部分を隠すのではなく、あえて美しく見せる修復。割れ目は欠点ではなく、その器が歩んできた時間の証。

この考え方は日本の美意識である「侘び寂び」にも通じています。

世界が注目する日本の修復文化

近年、この金継ぎは海外でも広く知られるようになりました。

ヨーロッパでは

・金属の留め具による修理
・接着剤による補修

などの修復はありましたが、修復を美として見せる文化はあまりありませんでした。

そのため現在では金継ぎは世界中で

『Kintsugi

という日本語のまま紹介されるほど注目される文化になっています。

現代の暮らしに寄り添う修復 グルー継ぎ

そして現代。

もっと気軽に器の修復を楽しめる方法として広まってきたのが グルー継ぎ です。
接着剤(グルー)を使って器を修復し、その継ぎ目を装飾して仕上げる方法。

本格的な金継ぎは漆を使うため時間も手間もかかりますが、グルー継ぎは比較的短時間で仕上げることができ、気軽に楽しめるのが魅力です。

お気に入りの器が割れてしまったとき、「もう使えない」と諦めるのではなく、自分の手で直してもう一度暮らしの中へ迎え入れる。そんな楽しみ方ができるのです。

修復の跡が語るもの

かつて誰かが割れてしまった器を手に取り、「まだ使いたい」と思った。

そして修理をしてまた日々の食卓で使い続けた。その痕跡が、今も器に残っているのです。

アンティークの世界では、こうした修復の跡をその器が歩んできた歴史として魅力に感じる人も少なくありません。

新品の器にはない、長い時間を生きてきた証。それもまたアンティークの楽しさの一つです。

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