現代のカフェやダイニングでもよく見かける、軽やかで曲線が美しい木の椅子。それが「ベントウッドチェア(曲げ木椅子)」です。 実はこの椅子、家具の歴史をガラリと変えた「ハイテク革命」の産物だったことをご存知でしょうか?今回は、その誕生から現在まで続く物語をご紹介します。
ベントウッドチェアの父:ミヒャエル・トーネット
1819年、ドイツのボッパルトに小さな家具工場を構えたミヒャエル・トーネットからすべては始まりました。
当時の家具は、大きな木材を「削り出す」のが当たり前。しかし彼は、木を「蒸して曲げる」という全く新しい技術に目をつけます。
- 革新的な技術: 当初は合板(重ねた木)を曲げていましたが、研究を重ねた結果、1856年にはついに「一本の無垢材」をS字に曲げる技術を完成させます。これが、強さと美しさを両立したベントウッドチェアの基礎となりました。
歴史を動かした2つの出会い
トーネットが世界的な帝国を築くきっかけには、重要な出会いがありました。
- 権力者メッテルニヒとの出会い: オーストリアの政治家メッテルニヒに見出されたことで、独占的な特許を取得。経済的な支援も受け、宮殿の家具を手掛けるようになります(これが後に量産されるNo.1モデルの原型です)。
- 「カフェ・ダウム」でのデビュー: 1850年、ウィーンの人気社交場「カフェ・ダウム」に納品された椅子(No.4)が評判を呼び、世界中から注文が殺到します。これが「カフェで使われる椅子=ベントウッド」というイメージの原点となりました。
世界初の量産家具「No.14」の衝撃
今回ご紹介している「No.14」は、まさに「名作中の名作」。1859年に発表され、世界で初めて「消費者のために量産された椅子」と言われています。
- 究極の機能美: わずか数種類のパーツで構成され、組み立てやすい「ノックダウン方式(分解組み立て)」を採用。
- 物流の革命: 1立方メートルの箱に36脚分ものパーツを詰め込んで輸出できたため、世界中に普及しました。



現代に受け継がれる伝統:TON社
現在、この伝統を受け継いでいるのが、チェコのTON社です。 1861年にミヒャエル・トーネットが建設したビストリッツェ工場を、1953年にTON社が引き継ぎました。良質なブナ材の産地であるチェコで、今もなお職人たちが当時のままの製法で椅子を作り続けています。
アンティークとしての楽しみ方
ベントウッドチェアは、使い込むほどに味わいが増す家具です。 「未塗装(ピュア・マテリアル)」の状態から自分好みの色に育てたり、アンティーク塗装を施してヴィンテージな雰囲気を楽しんだり。すでに味わいが育ったものがよければアンティーク店で探してみたり。
軽くて丈夫、そして150年以上変わらないデザイン。 あなたのお部屋にも、歴史の一片を招き入れてると楽しいかもしれませんね。

