バドンヴィレー窯:「MARINE」シリーズの意外なピンクの魅力
バドンヴィレー窯は、その独自の芸術性と歴史的変遷の中で、特に魅力的な「MARINE」シリーズを生み出しました。
特徴:海とヨットのモチーフ、珍しいピンクの色彩、製造時期
バドンヴィレー窯の「MARINE」シリーズは、海とヨットのモチーフが描かれている点でマリンテーマに忠実ですが、その色彩は驚くほどユニークです。
一般的に海をイメージするとブルーが連想されがちですが、このシリーズでは、愛らしくも美しいピンクで海とヨットが描かれたスーピエール(スープボウル)などが存在します。このピンクのバリエーションは「とっても珍しいシリーズ」と評されており、コレクターの間でも特に人気があります。
さらに、この「MARINE」シリーズには、赤色の転写プリントで海洋モチーフに花柄のアクセントが施されたグレービーボート(ソース入れ)なども確認されており、これらは1884年から1902年頃に製造されたとされています。
これは、ピンクだけでなく、赤系のバリエーションも存在したことを示唆しています。また、1900年代初頭から中期にかけては、アイボリーホワイトの鉄器に青色の転写プリントで海辺の風景が描かれた「MARINE」シリーズのスープ皿も確認されており、”Marine ~ FT- Badonviller”のスタンプが見られます 。このことから、バドンヴィレー窯の「MARINE」シリーズは、単一の色ではなく、ピンク、赤、青といった複数の色調で展開されていたことがわかります。
この色彩の多様性は、当時の窯元が単なる写実性にとどまらない、芸術的な表現や市場での差別化を追求していたことを示唆しています。特にピンクや赤は、海辺の夕焼けやロマンティックな情景、あるいはより幻想的な雰囲気を表現するための意図的な選択であったと考えられます。これは、マリンテーマにおける色彩の多様性が、窯元の創造性や当時のデザイントレンドを反映していた証拠と言えるでしょう。

歴史的背景と窯の変遷 バドンヴィレー窯は、1897年にテオフィル・フェナル(Théophile Fenal)氏によって設立されました 。彼の叔父であるニコラ・フェナルが1828年にペクソンヌの陶器工場を買収したのが始まりで、テオフィルは家族の工場と競合する形でバドンヴィレーに新工場を設立したという背景があります。
バドンヴィレーは、フランス北東部のリュネヴィルと同じ地域に位置し、1922年にはリュネヴィルと合併、1979年にはサルグミンヌの傘下に入りました。さらに広範な統合として、1963年にはバドンヴィレー、リュネヴィル、サン・クレマンの工場が統合され、1980年代にはサルグミンヌを含むFSDVグループに加わっています。このような窯の変遷は、フランス陶器産業における統合の動きを反映しています。


